調律で終わらない調律師みきあつしのピアノ工房

アップライトピアノの方

アップライトピアノは本格的な練習に不向き?

アップライトピアノは本格的な練習ができないと思ってませんか?

たしかにグランドピアノと比べると、連打性やペダルの音質効果や全体音量等は劣るかもしれませんが、アップライトピアノでも本格的な練習は可能です。

私の好きな演奏家の一人でもあるラファウ・ブレハッチ(ポーランド)というピアニストがいます。
彼は2005年に開催された第15回ショパン国際ピアノ・コンクールで、3部門(マズルカ賞・ポロネーズ賞・コンチェルト賞)を獲得し、2位無しの完全優勝を成し遂げました。また2003年の第5回浜松国際ピアノ・コンクールで初めての国際コンクールに参加し優勝していますが、実はこのコンクール参加時点で自宅で練習していたピアノは、アップライトピアノだったのです。

このようにアップライトピアノでも十分高度な演奏は可能です。ただし、それには丁寧な調整が絶対条件です。

重要なのは、鍵盤・アクション・ダンパーの”調整”

ピアノは本体(ボディ)アクションの二つに分かれています。

まず、本体には弦が張っていて、弦を支えるフレームと、弦を鳴らして振動したものが”響板”という板に伝わり、空気を揺らして音となって聞こえます。そして弦のそばにある”ダンパー”で弦の振動を止めることによって音が止まります。
この本体にある弦をチューニングすることが”調律”です。

アップライトピアノの内部

次にアクションです。鍵盤・アクションメカニックがピアノ本体の中に入っています。

演奏者は演奏する際に鍵盤しか触れることは出来ませんが、鍵盤を押すとアクションの幾つもの部品が歯車のように連動されていて、最終的にハンマーで弦を叩いて音を鳴らすという仕組みになっています。

ここで問題なのが、この鍵盤とアクションには、金属部品の他に木材やフェルト・クロスといった自然素材を使用しているため、季節や環境の変化、特に湿気に影響を受けやすいのです。
具体的には、木材が変形したりフェルトやクロスも膨張して他の部品を押し付けると、そこでブレーキがかかります。

快適に弾けるようにするためには、調律師がこれらの部品の歪みを直し、膨張した部品も圧縮して、鍵盤を押し下げてハンマーが弦を叩くまでのブレーキを取り除き、且つロスなく正確に動くように調整する必要があります。

膨らんだ鍵盤のクロスを圧縮
アクションの縦のズレを修正(ウイペン合わせ調整)


更にこの鍵盤とアクションが鍵盤と同じ数だけある、つまり88鍵同じものが並んでいるので、88鍵全ての部品を同じ動きになるように丁寧に調整しないと、演奏者にとって弾きにくく、表現もつけにくいピアノになってしまいます。

具体的には

  • ピアニッシモが出しにくい
  • 鍵盤が重い
  • トリルがきかない
  • グリッサンドすると痛い
  • すぐに腕がパンパンになる
  • 強弱がつけにくい
  • 多彩な音色が出せない
  • 所々キンキンまたはモコモコした音がある
  • タッチや音色が不揃い

などなど。そこでこれらを解消するのが”整調”(鍵盤・アクション・ダンパーの調整)です。

仕上げの"整音"

精確な整調と調律が終わると最後に”整音”です。

ピアノは一つの音に対して、中音部から高音部は3本、低音部は2本、最低音部は1本の弦が張っています。
この3本または2本の弦に対して、ハンマーが同時に当たる(噛み合う)ように調整し、さらにハンマーの弾力を整え音色や音量を揃える調整を”整音”といいます。

整音がされていないと、モコモコした音やキンキンした音が不均等に並んでいたり音が伸びなかったりと表現のつけにくいピアノになってしまいます。

ハンマーの最終整音

ピアノは総合力で変わります

いかなるピアノも整調・整音を行わないと、演奏者が意図した表現ができず弾きづらいピアノになってしまいます。

整調・調律・整音の全てをメンテナンスすることで、ピアノが持つポテンシャルを最大限に引き出し、快適に弾けるようになります。

アップライトピアノ作業工程

整調(鍵盤・アクションメカニック・ダンパー)ネジ締め及び掃除(アクション・鍵盤・本体)
鍵盤(バランス・フロントキーピン)磨き
鍵盤(バランス・フロントキーピン)位置・傾き調整
鍵盤(バランス・フロントホール)調整
弦合わせ(走り・ねじれ・間隔)調整
ウイペン調整
ジャック位置(高さ)調整
鍵盤(白鍵・黒鍵)高さ・間隔調整
キャプスタン(前後・左右)調整
バックチェック合わせ調整
鍵盤深さ(沈み量)調整
ハンマー接近調整
打弦距離調整
ハンマーストップ調整
ブライドルワイヤー調整
ジャックストップレール調整
ダンパー総上げ調整
ダンパーかかり(始動)調整
各ペダル調整(踏み込み量・遊び)
調律調律(A= Hz ⇒ A= Hz)
整音ハンマー整形
弦あたり(3弦、2弦合わせ)調整
ハンマー弾力(針入れ)調整

[整調] 鍵盤・アクション・ダンパー調整

ピアノの鍵盤の弾き心地(タッチ)を88鍵全て揃える作業(15時間以上)

1ネジ締め及び掃除(アクション・鍵盤・本体)

ピアノ内部の掃除をします。

髪の毛一本でも挟まっていると鍵盤の高さや深さも変わってきますので、各部品を外して確認し綺麗にします。

鍵盤下の掃除

2鍵盤(バランス・フロントキーピン)磨き

鍵盤の支えになる部品です。このピンが錆びていたりベタついていると、鍵盤の摩擦抵抗が増えブレーキがかかるため、全てのレスポンスが遅くなり弾きづらいタッチだけでなく音量低下にも繋がります。

このピンを全て磨き同じ滑り具合にすることで、均一なタッチの土台ができます。

バランスキーピン磨き
フロントキーピン磨き

3鍵盤(バランス・フロントキーピン)位置・傾き調整

鍵盤の支えになるピンを磨き終えたら、平らな定規を当てて88鍵それぞれのピンを同じ位置と同じ向きに揃えます。

隣同士の鍵盤を均一なタッチにするための重要な調整です。

バランスキーピン位置調整
フロントキーピン傾き調整

4鍵盤(バランス・フロントホール)調整

鍵盤の支えになるピンと、それを覆っているクロスとの隙間の調整です。

隙間がなくなると鍵盤にブレーキがかかり、最悪の場合鍵盤が上がってこなくなります。
逆に隙間が多すぎると、鍵盤がブレてカタカタ音がしたり、その隙間からパワー漏れするので、広すぎず狭すぎず適度な量を作って調整します。

バランスキーホール調整
フロントキーホール調整

5弦合わせ(ハンマー走り・ねじれ・間隔)調整

弦を叩くハンマーのポジション調整です。人間の身体で例えると、歯の矯正に似ています。

上の歯と下の歯が正しい位置で当たるように、ピアノも88鍵全てのハンマーが弦の正しい位置にくるように一つずつ調整します。

これがズレていると、この後行うサポート合わせ調整にも影響がでますので、88鍵全て同じポジションで弦に当たるように調整します。

ハンマーの不均等な間隔や弦に対してポジションがズレている状態
ハンマー走り調整

6ウイペン合わせ調整

ハンマーの真下にあるウイペンいう部品のポジション調整です。ウイペンという部品は、弦を叩くハンマーと鍵盤の中間にある部品で、鍵盤からのパワーを最大限ハンマーに伝えるための一番重要な役割です。

人間の身体で例えると、頭(ハンマー)・背骨(ウイペン)・骨盤(鍵盤)となり、身体の歪みを整えるのと同じように、このウイペンとハンマーと鍵盤を一直線にすることで、鍵盤からのパワーを無駄なくハンマーへ伝えることができます。

ウイペン合わせ調整
ウイペン位置調整

7ジャック位置(高さ)調整

ジャックという部品は、アクションのウイペンに付いている部品です。

このジャックは間接的にですが、弦を叩くハンマーを唯一操作できる重要な役割を持っています。このジャックが正しいポジションに戻らないと次の音が出ませんし、ジャックの位置や動くタイミングによってタッチや音色にかなり影響が出ますので、88鍵盤同じポジションにくるように一つ一つ精確に調整します。

ジャック高さ調整
ジャック高さ調整

8鍵盤(白鍵・黒鍵)高さ・間隔調整

平らな定規を鍵盤の上に当てて鍵盤の高さを測り、鍵盤の下に数種類の紙を挟んだり抜いたりして高さと間隔を揃える調整です。

鍵盤の高さ・間隔調整は、この後に行なうアクションのウイペン合わせ調整、鍵盤の深さの調整の基準になりますので、精確に調整します。

鍵盤高さ調整
白鍵の高さ調整

9キャプスタン(前後・左右)調整

鍵盤の奥にあるキャプスタンというスクリューでアクションのウイペンを持ち上げ、内部パーツが動き最終的にハンマーで弦を叩きます。

このキャプスタンの持ち上げる前後位置がズレると、タッチが重くなったり軽くなったり、また左右にズレるとパワーロスになるため、88鍵全てが同じ位置にくるように調整します。

キャプスタン前後位置調整
キャプスタン左右位置調整

10バックチェック合わせ調整

ハンマーが弦を叩いた後、鍵盤の奥にあるバックチェックという部品で受け止められます。

このバックチェックの角度と向き、そしてポジションがズレていると、ハンマーを確実に受け止めることができず、2回目の音が素早く出せなくなります。

バックチェックがハンマーの中心で確実に受け止めれるようにワイヤーを曲げて88鍵全て調整します。

バックチェック合わせ調整

11鍵盤深さ(沈み量)調整

鍵盤の深さ(沈む量)を隣同士均一に揃える調整です。

鍵盤の沈む量が不均等になると、音量や音色、そしてタッチ感も揃いません。鍵盤の下に数種類の紙を入れたり抜いたりしながら全ての鍵盤の深さを均一に調整します。

白鍵深さ調整
白鍵深さ調整

12ハンマー接近調整

アクションのジャックという部品が弦を叩くハンマーを間接的に持ち上げ操作しますが、このジャックが鍵盤を押し下げる途中でハンマーの持ち上げを止めます。

これはキャッチボールする際のボールの投球に似てます。腕を回してボールを前に投げる際にどこでリリース(ボールを離す)するか。早くリリースし過ぎるとボールは上に飛んでいき、遅過ぎると地面に当たります。

真っ直ぐ飛ぶように適正なタイミングでリリースするように、ピアノも鍵盤を押し下げた時にどの位置でジャックをリリースするか調整します。ハンマーを弦に近づけ(接近させ)てリリースタイミングを確認します。

タイミングが遅過ぎると詰まったような音になり、タイミングが早過ぎると輪郭のないぼやっとした音質とタッチ感も重くなるので88鍵慎重に揃えます。

ハンマー接近調整
ハンマー接近調整

13打弦距離調整

弦からハンマーまでの距離を低音部から高音部まで各セクション計測して揃えます。

鍵盤の沈む量とアクションの運動量とのバランスをこの打弦距離で調整します。タッチ感に大きく影響するので慎重に揃えます。

打弦距離調整

14ハンマーストップ調整

ハンマーが弦を叩いた後に鍵盤の奥にあるバックチェックという部品で受け止められます。

このストップした時の弦との距離を調整します。広いと指先にコツコツと衝撃があり、狭いとフォルテッシモが出しにくくなりますので88鍵全て同じ量になるように一つずつ揃えます。

ハンマーストップ調整
ハンマーストップ調整

15ブライドルワイヤー調整

弦を叩くハンマーが前進して弦を叩いた後、2度目の音を素早く出せるようにハンマーを後ろに引っ張るための紐がブライドルテープです。

このブライドルテープが弛み過ぎていたり張り過ぎていると素早い連打ができなくなりますので、ブライドルテープの前後・左右の位置を88鍵適正な位置にくるようにテープを引っ掛けているワイヤーを曲げて調整します。

ブライドルワイヤー左右位置調整

16ジャックストップレール調整

ハンマーを間接的に持ち上げるジャックが鍵盤を押し下げた際に、行き過ぎないようにレールについたフェルトでストップさせます。

このレールとジャックの距離が狭過ぎると、ジャックがリリースできなくなり、ハンマーもキャッチできずリバウンド(1回しか鍵盤弾いていないのに2回音がなる状態)しますので、適正な距離にくるよう低音・中音・高音それぞれ同じ距離になるよう調整します。

ジャックストップレール調整
ジャックストップレール調整

17ダンパー総あげ調整

弦の振動を止める役割のダンパーフェルトが、板一枚のように一斉に手前に弦から離れ、そして一斉に弦の振動を同時に止めるようにタイミングを揃えます。

これが揃っていないと、ハーフペダルが効くところと効かないところが出たり、ゆっくりペダルを戻す際にバラバラに音が止まったりしますので、一つずつ慎重にタイミングを調整します。

ダンパー総上げ調整

18ダンパーかかり(始動)調整

弦の上に弦の振動を止めるダンパーがあります。

鍵盤を約半分押し下げた時に、ウイペンの奥についているスプーン(ダンパースプーン)で、ダンパーが弦から離れる(かかり始める)ようにタイミングを調整します。タイミングが早過ぎるとタッチが重くなり、遅過ぎるとダンパーが弦を解放できず音が伸びなくなりますので、適正なタイミングに合うように調整します。

ダンパーかかり調整
ダンパーかかり調整

19各ペダル調整(踏み込み量・遊び)

3本または2本のペダルの踏み込み量や遊び量の調整をします。

それぞれのペダルのロス(隙間)を無くして適正な量を作り、これまでの各ペダル調整機能が活かせるように調整します。

[調律] 約230本の弦の張力を調整

音階を作る作業(1〜1.5時間)

1調律

ピアノは一つの鍵盤に複数(最低音部1本、低音部2本〜3本、中音部3本、高音部3本)の弦が張ってあります。

各弦の周波数が微妙にズレると音が干渉し”うなり”が出ます。うなりが多いと濁ったような音になりますので、弦が巻き付いたチューニングピンを回して弦の張力を加減しながら、うなりを調整します。

中音部のラの音の周波数を440〜442Hzに合わせ、それを基に他の弦と比較していき、うなりを数を聴き分け全ての音の高さを調整します。

調律

[整音] 弦を叩くハンマーの弾力調整

音色・音質・音量を整える作業(3時間以上)

1ハンマー整形

弦を叩くハンマーの形状を整える調整です。

ハンマー先端につく弦の溝の深さや形状によって音質も変わってきますので、隣同士のハンマーの形状を揃えるように整形します。

ハンマー整形
ハンマー整形

2弦あたり(3弦、2弦合わせ)調整

ハンマーが複数ある弦に同時に当たるように調整します。

これが揃っていないと立ち上がりの音が綺麗に発音できず籠った音色になりますので、一つずつハンマーを弦に当てた状態で順番に弦を弾(はじ)いていき、音の長さを聴き分け、ハンマーの先端を整形しながら同時に当たるように調整します。

弦あたり(弦との噛み合わせ)調整
弦あたり(弦との噛み合わせ)調整

3ハンマー弾力(針入れ)調整

整音の最終調整になります。同じ力で弾いた時に音量や音色が異なる鍵盤に対して、ハンマーに針を入れ(刺して)たりハンマーを硬くしたりと弾力を調整します。

音色や音量を聴いて隣同士が揃うように調整します。

ハンマー硬さ調整

料金

ピアノを健康状態に戻し快適に弾けるようにするためには、丁寧な整調と整音は欠かせないと考えています。
そのため当工房のメンテナンスは、調律・整調・整音・修理を含めた時間制で行なっています。

コース料金
半日(4時間)30,000円
1日(8時間)60,000円
※岡山県外は場所・距離・条件などにより出張費が別途かかります

コース内容はご要望によって異なります。またコンサート・レコーディング・発表会等の調律も内容によって作業時間や料金も異なりますので、初めての方は一度こちらからご相談ください。

お問い合わせ

【半日コース】

  • ケース①こもった音色だったピアノが蘇ったお客様
    [1回目のメンテナンス]・鍵盤バランスキーピン磨き・鍵盤フロントキーピン磨き・バランスキーホール調整・フロントキーホール調整・ジャック高さ調整・調律
    [2回目のメンテナンス]・バランスキーホール調整・フロントキーホール調整・ジャック高さ調整・鍵盤高さ調整・ハンマーストップ調整・ハンマー整形・弦合わせ調整・調律・弦あたり調整
  • ケース②「ピアノのメンテナンス=調律」と思っていたお客様
    [1回目のメンテナンス]・鍵盤バランスキーピン磨き・鍵盤フロントキーピン磨き・バランスキーホール調整・フロントキーホール調整・ジャック高さ調整・調律
    [2回目のメンテナンス]・バランスキーホール調整・フロントキーホール調整・ジャック高さ調整・鍵盤高さ調整・鍵盤深さ調整・ハンマー接近調整・キャプスタン調整・ハンマーストップ調整・調律

【1日コース】

【2日コース】

  • ケース①ご実家に眠っていたヤマハアップライトピアノが蘇ったお客様
    ・鍵盤バランスキーピン磨き・鍵盤フロントキーピン磨き・バランスキーホール調整・フロントキーホール調整・弦合わせ調整・ウイペン合わせ調整・ジャック高さ調整・鍵盤高さ調整・鍵盤深さ調整・ハンマー接近調整・打弦距離調整・バックチェック合わせ調整・キャプスタン調整・ハンマーストップ調整・ブライドルワイヤー調整・ジャックストップレール調整・ダンパー総上げ調整・ダンパーかかり調整・調律・ハンマー整形・弦あたり調整・ハンマー弾力調整